10/31にベルサール神田で開催されたWordCamp Tokyo 2015へ参加してきました。今年は「More Publishing=情報発信」というテーマの通り、幅広い領域を扱うセッションやハンズオン等のボリュームも拡大。
今回は気になるセッションを回ることに専念してみたのですが、どのセッションに出るか迷ってしまうほど興味深い話題が満載。地方や海外からの参加者も多く、相変わらずWordPress界隈の盛り上がりを強く感じさせるイベントでした。
目次
【基調講演】「なんとなく」の壁を越えよう!自信を持ってWordPressを選択するためのヒント
まずは、Automattic社のグローバライザーとして、WordPressの日本語翻訳などにも関わる高野直子さんの基調講演から。『なんとなく』WordPressが人気だから使っているという人も多いと思いますが、改めてツールとしてのWordPressのメリットを振り返りつつ、最新の開発状況などを解説してくれました。
WordPressはパブリッシングプラットフォームと言われていますが、日本語に訳すと「出版」や「発行」となってしまい、あまりピンと来ない人も多いかもしれません。直子さんによれば、WordPressの利点は『表現したいメッセージをパッケージ化して届けること』。今でこそTwitterなどのSNSが主流ですが、きちんとメッセージを伝えるには、やはりブログのように程よい長さのコンテンツが適しているのではないでしょうか?
WordPressの普及率は目覚ましく、世界中のWebサイトのうち約25%がWordPressで作られているそうです。これはちょうど3年前のWordCamp Tokyoで直子さんの講演を聞いた時には16.8%と仰っていたので、ここ数年でさらに着実にシェアを伸ばしていることが実感できます。(CMSの世界シェアでは58.8%)
大手メディアのサイトでも採用されてるという安心感もありますが、やはり個人的に一番魅力を感じたのは、常に最新のトレンドを取り入れて続けている点です。例えばWordPressの最新バージョン4.4では、まだ未対応ブラウザも多いレスポンシブイメージの仕様を、正式に実装することが決まったのだとか・・。
WordPressを選択するだけで、自然とWEBの最新技術に触れることができて、さらにその先のトレンドを知ることができるというのは、制作者としては嬉しいポイントですよね。
オープンデータとオープンソース、そしてWordPress
続いて、WordPressのプラグイン開発者としても有名で、Vagrantを用いたWordPressの仮想環境である「VCCW」の生みの親として、私もお世話になっている宮内隆行さんのセッションに参加。WordPressと関連の深いオープンソースだけでなく、私たちの生活に馴染みの深い公的データのオープン化にまつわる、スケールの大きなお話でした。
デジタル先進国のアメリカでは、Data.govというオープンデータのカタログサイトが公開されていて、あらゆる分野の公共データをデジタル形式で取得できるそうです。さらに、ホワイトハウスが運営しているGitHubのリポジトリでは、連邦情報テクノロジー改革法という法律そのものが公開されていて、Web上で質疑が行われているのだとか・・。
そんな米国の事例に負けじと、日本国内での取り組みも活発化しています。国土地理院では、「地理院地図」というWebサービスをオープンソース化し、日本OSS奨励賞を受賞しただけでなく、様々な地図データをGitHubリポジトリに公開中。他にも地方自治体としては、和歌山県などがGitHubを積極的に活用してオープンデータを公開しているそうです。
そもそも、情報を誰にでも使えるようにする『オープンデータ』の考え方は、WordPressの思想であるGPLライセンスに通じるものがあるし、政府や自治体の現場では、まだまだデジタル化されてないプロセスも多いので、IT事業者が貢献できる機会は大きいのではないか?そんな宮内さんの提言には、強く賛同の気持ちを感じさせるものがありました。
WordPress公式ディレクトリにテーマを登録しよう – 公式テーマ登録におけるマネタイズの考察 –
「BizVektor」というWordPressテーマの作者として有名な石川栄和さんによるセッション。個人的に公式ディレクトリ向けのテーマの制作には興味があったのですが、その先のマネタイズに関する話題まで多角的に掘り下げていたのは、実際的で為になりました。
テーマを公式ディレクトリに登録すると、たくさんの人に使ってもらえるだけでなく、世界中のユーザーからフィードバックやバグ報告がもらえるというメリットがあります。さらに、公式ディレクトリのルールに添ってテーマを制作するだけで、それ自体がすごく勉強になるのだとか。これは確かに、制作者としては一石二鳥かもしれません。
それでも、やはりマネタイズという部分に結びつかないと、長く続かない側面もあるのでしょう。一口に有償化といっても様々な戦略がありますが、そんな中から石川さん自身の経験を踏まえたベストパターンの一つとして、『無料テーマ + 並用プラグインの販売』というやり方について、実例を交えて詳しく紹介してくれています。
その上で、公式ディレクトリ登録を狙うなら、機能を盛り込み過ぎないシンプルな作りにすることや、テーマレビューのプロセス自体をよく知っておくことが重要なのだとか。この言葉が、私に翌日のコントリビューターデーで「テーマレビュー」をやってみよう!と思わせるきっかけになるのですが、それはまた別のお話・・。
マルチパブリッシングプラットフォームとしてのWordPress 〜 ePubジェネレータとしての活用例紹介 〜
お昼休憩等を挟んでからは、再び大ホールにて高橋文樹さんのセッションに参加。小説家でありながら、WordPressプラグインも多数開発しているという、ユニークな経歴を持つ高橋文樹さん。
今回のセッションでは、Webサイト生成ツールであるWordPressを応用して、ePub形式の電子書籍を出版するマルチパブリッシングプラットフォームとして活用する事例を紹介してくれました。WordPressを使って、誰でもAmazonで作家デビューできてしまうというのですから、まさに夢のようなお話ですよね!
このePubパブリッシング機能は、元々文樹さんが自分の作品を発表する場として作った「破滅派」というサイトで提供されているのですが、Webサービスとしての収益性に限界を感じていたところに、新たに切り込んだ新領域が、この『電子出版』なのだそうです。
電子書籍やアプリなど、Webでは到達できない新領域を『閉じた暗黒世界』と表現していたのが面白かったのですが、未開拓の分野に次々とチャレンジする文樹さんの開拓精神には見習うべきものが多いですね。私もWordPressで会員制サービスを作りたいと思っているので、色々な部分で参考にさせてもらうことになりそうです。
WP-CLIとWordPress公式ディレクトリを活用した爆速サイト構築術 -インストールからデザイン、ページ作成までを10分で!-
最後は、WordPressプラグインやテーマの開発者として有名な北島卓さんのセッションをご紹介。「10分でサイトを作る」という意欲的なタイトルのセッションですが、単一の技術を取り上げるのではなく、コマンドラインツールやCSSフレームワーク、公式ディレクトリ掲載テーマなどを組み合わせている点が興味深く、実践的な内容でした。
それなりのサイトを10分で作るには、まずはWP-CLIというコマンドラインツールを使ってWordPressのインストールや初期設定の時間を短縮。また、テーマ制作もイチから作るのではなく、カスタマイズしやすいテーマを使って時間短縮。さらにコンテンツ部分のコーディング作業も、Bootstrapなどのフレームワークを使うことで時間短縮。・・という3段構成で解説されていました。
使用するテーマとしては、北島さん自身がリリースした「Habakiri」を例にしていたのですが、細かい部分までカスタマイズしやすい工夫がされていることがよく分かりました。私は、WP-CLIは使ったことがなかったのですが、実際に使用している様子を見ると、すごく便利そうだったので、早速導入してみたいと思います。
実際のデモ部分では、見ているこちらがドキドキしてしまうほどの緊迫感がありましたが、制作系のセッションでこういう切り口の内容は、最近のWordCamp Tokyoでもあまりなかった気がするので、その点はとてもよかったと思います。日頃の制作業務で、この辺りの周辺技術を活用されている、北島さんならではのセッションだったのではないでしょうか?
まとめ
他にも気になるセッションやハンズオンはたくさんあったのですが、タイムテーブルの関係で今回ガッツリ見て回れたのは、以上のセッションが中心となりました。他にも覗いたライトセッションやLT大会では興味深い話が多く、5〜10分ではとても語り切れないほど濃いトピックが飛び交っていたのが印象的です。
全体のボリュームや登壇者のバリエーションも去ることながら、今年は「More Publishing」というテーマにふさわしく、WordPressを使ってさらなる情報発信を行うためのヒントがたくさん得られたような気がします。技術的な進歩という面でもそうですが、やはりリレーブログのエントリー記事でも書いたように、コミュニティを支える層の厚さこそが、WordPressの魅力と言えるかもしれません。
今年は、昨年までの大田区産業プラザから会場が変わるということで、どんな感じになるのかな?と思っていたのですが、大ホールでは広々とした空間でブース見学から懇親会までゆったり楽しむことができ、またスタッフの方々の誘導で各セッションルームへの移動もスムーズに行うことができました。
参加するだけで、普段お会いできない方々とも交流することができ、グッズやお土産なども色々とGETできる楽しいイベントなので、Webやブログの運営に興味のある人は、ぜひまた来年参加してみてはいかがでしょうか?
さらに今年はWordCamp Tokyo初の試みとなる2日目の「コントリビューターデー」で、さらに実りある体験をすることができたのですが、そちらは追って続編エントリーをアップして、詳しく紹介したいと思います。